時間外労働
労働基準法が定める労働時間は、休憩時間を除き、週40時間及び1日8時間とされています。これを法定労働時間といいます。しかし、業務の都合等により、法定労働時間を超えて労働を行うことが必要な場合もあります。そこで、労働基準法は、災害等による臨時の必要がある場合と労使協定が締結され、それが労働基準監督署長に届け出された場合にのみ、時間外労働や休日労働を認めています。
労使協定による時間外労働は、労働基準法第36条に規定されていることから、36協定とも呼ばれます。なお、労使協定とは、使用者と事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があればその労働組合、ない場合は、過半数を代表する者との間で締結された取り決めのことです。この場合でも限度時間が定められており、1ヶ月について45時間、1年について360時間です。
しかし、通常予見することのできない業務量の増加等も考えられるため、そのような場合に備えて、特定の場合の上限を定めておくことができます。その場合、下記に示したような一定の要件が定められています。
- 年間の時間外労働が年間720時間未満
- 休日労働を含んで、2か月ないし6か月の平均は80時間以内
- 休日労働を含んで、1か月は100時間未満
- 月45時間を超える時間外労働は年の半分を超えない
このように使用者には、36協定などによって時間外労働命令権が認められています。しかし、その権利を濫用することは許されません。
面接指導
長時間労働とメンタルヘルス不調との関係においては、精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会によって、「極度の長時間労働、例えば数週間にわたる生理的に必要な最小限度の睡眠時間を確保できないほどの長時間労働は、心身の極度の疲弊、消耗を来し、うつ病等の原因となると考える。(精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会・2011年11月)」という見解が表明されました。そのため、労働安全衛生法では、一定の要件のもと、長時間労働者に対して、面接指導の実施を義務づけています。
面接指導とは、医師が問診その他の方法により労働者の健康状態を把握し、必要な指導を行うことです。なお、面接指導は、長時間労働そのものを排除するものではなく、メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う二次予防であることに注意してください。
長時間労働に対して義務付けられている面接指導については、一般労働者からの申出による面接指導、研究開発業務従事者への面接指導、高度プロフェッショナル制度の対象労働者への面接指導の3つに分けることができます。
長時間労働者に対する面接指導
事業者は、一定の要件に該当する長時間労働者に対し、医師による面接指導を行わなければなりません。一定の要件とは、週40時間超の労働時間が1か月当たり80時間を超えており、かつ、疲労の蓄積が認められる労働者です。この場合、当該労働者の申出が必要です。
研究開発業務従事者への面接指導
事業者は、一定の要件に該当する新技術・新商品等の研究開発に従事する労働者に対し、医師による面接指導を行わなければなりません。一定の要件とは、週40時間を超える労働時間が1ヶ月当たり100時間を超えている場合です。この場合、当該労働者の申し出は不要です。
高度プロフェッショナル制度の対象労働者への面接指導
高度プロフェッショナル制度とは、高度の専門的知識を必要とし、その性質上、従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして、厚生労働省が定める一定の業務に従事する労働者で、支払われる賃金の年収額が一定額を上回る労働者を対象とする制度です。金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリスト業務等が対象業務とされています。
高度プロフェッショナル制度対象労働者には、労働時間、休憩、休日、深夜の割増賃金に関する労働基準法上の規定は適用されません。しかし、対象者の健康管理は行う必要があるため、健康管理時間の把握が義務づけられています。健康管理時間とは、対象労働者が「事業場内にいた時間」と「事業場外において労働した時間」の合計とされています。
事業者は、一定の要件に該当する高度プロフェッショナル制度対象労働者に対し、医師による面接指導を行わなければなりません。この場合の一定の要件は、週40時間を超える健康管理時間が1ヶ月当たり100時間を超えている場合です。この場合、当該労働者の申出は不要です。
面接指導の方法
事業者は、面接指導を実施するため、タイムカードによる記録、パーソナルコンピューター等の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければならないとされています。労働時間の算定は、毎月1回以上、一定の期日(通常は賃金締切日)を定めて行わなければなりません。
事業者は、1ヶ月の時間外・休日労働時間が80時間を超えた労働者本人に対して、超過した時間に関する情報を通知しなければなりません。本人が気づいていないことがあるためです。
また、事業者は、産業医に対し、労働時間が週40時間を超えた時間が1月当たり80時間を超えた労働者の氏名及び当該超えた時間に関する情報を月1回以上行う労働時間の把握後おおむね2週間以内に提供しなければなりません。
面接指導は、医師が対象労働者に対面で行うことが基本とされますが、直接対面せずに、情報通信機器を用いることも可能とされています
情報通信機器を使用した面接指導の場合、医師と労働者とが相互に表情、顔色、声、しぐさ等を確認でき、映像と音声の送受信が常時安定し円滑であること、情報セキュリテが確保されていること、情報通信機器が容易に利用できることの3つの要件を全て満たしている必要があります。
面接指導は、事業場から提供された情報をもとに、あらかじめ準備した「長時間労働者への面接指導チェックリスト」あるいはこれに準ずるツールに沿って実施されます。
面接指導の実施後の措置
面接指導後、面接指導者は、事業者に対して面接指導に対する報告書を提出します。この報告書は、健康情報の保護の観点から、記入したチェックリストなどをそのまま事業者に提出することは避け、別途報告書を作成すべきとされています。
面接指導の結果の記録には、下記の事項を記載したものでなければなりません。
- 面接指導の実施年月日
- 面接指導を受けた労働者の氏名
- 面接指導を行った医師の氏名
- 面接指導を受けた労働者の疲労の蓄積の状況
- 面接指導を受けた労働者の心身の状況
- 面接指導の結果に基づき、労働者の健康を保持するために必要な措置について医師から聴取した意見
面接指導者は、労働者の健康の保持のため必要があると認める場合は、事業者が行う就業上の措置に関する意見を事業者に述べる必要があり、これを文書で提出することが望まれています。
事業者は、医師の意見を勘案し、必要があると認めるときは、下記のような措置を行います。
- 就業場所の変更
- 作業の転換
- 労働時間の短縮
- 深夜業の回数の減少等
事業者は、産業医の意見を勘案し、労働者の健康の保持のために必要な事後措置を行った場合、その事後措置について、産業医に対し、意見聴取後おおむね1ヶ月以内に提供しなければなりません。なお、事後措置を実施しなかった場合は、その旨及びその理由を提供します。
面接指導(努力義務)
労働安全衛生法では、面接指導が義務づけられている労働者以外にも、健康への配慮が必要なものについては、面接指導の実施または面接指導に準ずる措置を講ずるように努めることを定めています。
対象者は、事業場において定められた「面接指導またはこれに準ずる措置」の実施に関する基準に該当する労働者や高度プロフェッショナル制度対象労働者で、週40時間を超える1ヶ月間の健康管理時間数が100時間以下である労働者が申出をしたものです。
面接指導に準ずる措置とは、労働者に対して保健師などによる保健指導を行うこと、チェックリストを用いて疲労蓄積度を把握の上、必要な者に対して面接指導を行うこと、事業場の健康管理について事業者が産業医等から助言指導を受けることなどを挙げることができます。